姑「それにしても、順調に子供もできそうねえ」
妹「そうですね。何の問題もなかったですねえ」
母「子供の頃はお兄ちゃんと比べてグズだったこの娘が、こんなにスイスイ行くとは思わなかったのよー」
私「こっ、このケーキおいしいねえ。どこで買ったの?」
姑「今度は、お兄さんの番よねえ」
母「そうよ、あんたも給料取りになったんやから、そろそろ身を固めんと」
来ました来ました。社会との折り合いがいまいち上手く行かず、友人達が次々と結婚していく中、なんとなくボーッとしているうちに適齢期を迎えてしまった人に必ず襲ってくる、世話好きおばさんの「見合いしなさい」攻撃です。類は友を呼ぶとはよく言ったもので、僕の周りにはこの攻撃に悩まされて夜も寝られない人がままいるわけです。これまで学生の身分にかまけて対岸の火事を決め込んでいた私についに「見合いの一つでもしてみたら」の声がかかってしまったのです。
姑「お兄さんだったら相手に不自由しないでしょう」
私「いえいえ、そんな、振られてばっかりですわ」
姑「結婚したくないわけじゃないでしょう?」
私「いやあ、こればっかりは一人でできるもんじゃないですからねえ」
母「あんた、ちょっと、お見合いしてみる気あんのん?時々話くるけど、どうせあんた嫌がるやろ思ってほっといたんやで。こないだみせてもろた娘さんなんて、これがえらい別嬪さんで、ピーチクパーチクピーチクパーチク」
このとき、僕はどうやったらこの話題から話を逸らせるかという一点だけに頭を使っていました。決してお見合いみたいな前時代的なもの嫌だとかリベラルなことを言うつもりはありませんが、こういう問題に親が首を突っ込んできてグチャグチャに引っかき回されるのだけは御免被るつもりでした。しかし、そうはいうものの、こういうのはノラクラと切り抜けようとしても、相手はこちら以上に閑なおばさんです。許してくれそうもありません。何か、言わなくては。話の主導権をこっちが握りかえすのだ!
私「ほう。別嬪さん?そいつは見てみたかったなあ」
この苦し紛れの転回が今回の僕の勝利を決定づけました
妹「こいつは美人となると目の色変えるからなあ」
私「そんな美人やったら、わし見合いしてもええで」
母「ほんまか?それやったら人に頼んでみるで」
妹「美人でないと文句いうんちゃう?」
私「当たり前や。美人と会いたくてお見合いするねんで」
姑「やっぱり顔が大事なの?」
母「あんた、女は性格やで、性格」
私「そんなことあるかいな。どのみち、なんかで選ぶんやろ。断られるときに、あんたの性格あかんねんって言われたら、立つ瀬ないやん。人格否定されるねんで。それに比べりゃあ否定されるの顔だけの方が、ずっとええで。」
母「何言うてんのん。」
私「だいたいやなあ。どんな人かって、ええとこもあり、悪いとこもありやろ。性格に長所のない人なんておらへんで。わしゃ、どんな性格の人でもそれなりに長所見つけて合わせていけるで。これは、誉められこそせよ、決して悪いことちゃうで。で、やなあ、それでも全く誰でもええ言うわけにもいかんから、顔ででも選ぼうか言うてるんやん」
姑「ほー。なるほどねえ。そりゃ、もっともやわ」
妹、母「!」
私「でしょでしょ。もっともですよねえ」
姑「そりゃ、別嬪さんがいいわよねえ」
私「そういうわけやから、美人のお嬢さんと会うために見合いする!」
妹「アホか。相手にせんとき」
母「こんなやつに知り合いのお嬢さんなんて危なくってよう紹介できひんわ。」
というわけで、僕は無事「見合いしなさい」攻撃を真正面から跳ね返すことに成功したのでした。冗談から駒とはいえ、へ理屈もこねてみるものです。この手の攻撃に悩まされているあなた。無用に対立することなく、相手のロジックに乗って活路を開くのが勝利の秘訣ですぞ。
ほんとは美人にこだわらずに、結婚したいと思ってるんですよ。僕だって。