ミッション・トゥ・マーズ
2001年宇宙の旅から何程も変わっていない映画でした。満身の力を込めて好意的に解釈すれば、デ・パルマもキューブリックを崇拝していたんだなあと。非常に分かりやすい2001年宇宙の旅だと言えば、デ・パルマに甘すぎるでしょうか。
最近デ・パルマもB級な作品だけではなくて、風格ある大作もとることが出来るようになってきたのに、大宇宙の壮大な神秘の前には、あえなく玉砕してしまったか、と言う感じですね。やはり、彼は緻密に構成された小宇宙で話を展開させるほうが得意なようです。火星に行って生命の謎を解き明かすスケールの大きなお話にヒッチコックタッチは似合いませんものね。だから、彼の演出プランは、これであっているんですけれどもねえ。ジェームズキャメロンの甘々海洋SFのアビスを見たときの感じに似ています。あと、音楽の物々しさは僕には辛かったです。
SFは絵だ。という名言がありますが、この作品のビジュアル面は、すっごくかっこいいところと目を覆いたくなるようなところがごっちゃまぜです。マーズリカバリー号の回転居住区一回転分をワンカットで見せるところなんて、SFファンの夢とでも言うようなシーンです。あと、物資補給ポッドに乗り移るシークエンスも、とても面白かった。よく考えたら、非常に静かなシーンで、盛り上がりは俳優達の泣き顔のアップだけなんですけど、火星の上に一人浮かぶティムロビンスの絵の訴求力だけで最後まで引っ張れるのですからねえ。あそこがこの映画の白眉だと思う。一方で、火星に降りてからはどうかと思うぞ。人面像がありがちなグレイ型宇宙人、その中に入ってから生命の成り立ちを明かされるシーン、惑星軌道を赤い線で表示することはないだろうに。宇宙船が煙を吐いて飛んでいくのは、きっとやりたかったんだから大目に見るとしても、そのさきに渦状銀河があるっていうのはねえ。宇宙映画で銀河系を見せられると、一気に風格が損なわれるような気がするんですけどねえ。帝国の逆襲のラストもがっかりしたものなあ。古くさいなあ、って思う。
ドラマ面では、詰め込みすぎの感があります。ゲイリーシニーズの亡き妻への思いはラストシーンにつながる重要なものでしょうから削れないのですが、強く語られているわけではないので効果があまりない。ティムロビンス夫婦のエピソードは逆にしっかり描かれているので、効果抜群なんですがラストに効いてこない。黒人親子のエピソードは消化不良ですねえ。このへんをちゃんと描くには、あと40分くらい時間が必要だったんじゃないでしょうか。でも、それでは、だれるし。いっそ、ゲイリーシニーズとティムロビンスのキャラを融合させたらどうでしょう。で、シニーズの妻はミッションの途中で失われることにすると、フォーカスが定まったと思います。
アルマゲドンの時も思ったんですが、こんなに危機また危機じゃあ、大変です。もっとしっかり計画せいよっと思いますねえ。描かれるミッションがずさんな所が多いですものねえ。最初の探検でも少なくとも一人は基地でバックアップせえよ、とか、乗り移りのシーンでも最初っから、まだ距離が離れないうちにあれをやっていれば助けられたじゃないか、とか、そもそも救出に行くと言っても、あの段階で誰かが生き残ってると想定していること自体がおかしいとか、いろいろ現実性の無いところがあります。近未来SFはリアリティは大事ですよ。
わたし、SF映画に厳しいですか?根がそこなもので、ついつい。あ、でも、ビークロス改はかっこよかったですよ。
御裁断は(最高☆5つ)