キス・オブ・ザ・ドラゴン
「この戦いに愛はいらない」そうだ。というより、リーリンチェイに(ハリウッド風感情世界に基づく)愛はできない。このお話は言葉もわからぬ異国に来た中国人警察官と元アメリカの田舎娘が陰謀に巻き込まれる中で互いの境遇に共通点を見いだして心を通わせる話である。リーリンチェイをかくまってくれる中国食材屋の店主(ケイトーがこんなに味のある老人になっていたとは!)の望郷の念。東洋人の名前を発音できないからと言ってリーリンチェイのことをジョニーと呼び続ける悪役。そして彼を倒したときにリーリンチェイが「オレの名前は・・」とやるお約束の展開。クレジットを見るとストーリーはリーリンチェイとある。ひょっとして、本当は香港に帰ってウォンウェイフォンをやっていたいんじゃないのか?ジェットリーなんて名前はやっぱり不本意なのか?
マトリックス2の悪役を蹴って、こちらをやったという。巷間「リーリンチェイは作品選びのセンスがない」と言われているが、今回に関しては正解だったのではないだろうか。のっそりキアヌリーブス相手にワイヤーアクションやっているよりも、体の動く悪役を選んで存分に暴れてくれるほうがアクション俳優としては生きるというもんだ。アクションシーンにはブルース・リー映画からの影響があるようだ。それから狭いオフィスで格闘を有利に運ぶというシーンは今作の工夫である。
リーリンチェイはアクション以外の部分ではどこをどうとっても上手な俳優ではない。もちろん彼なりの個性や魅力はあるのだが、それ以外を表現できたことはこれまでなかったのである。そして彼の個性は力と単純さ命のハリウッドでは扱いにくい。その証明が「ロミオ・マスト・ダイ」だったのだ。しかし、下手な役者には喋らせなければいいのだ。このことによって今作ではリーリンチェイをミステリアスな東洋人(と西洋人が考えるもの)に仕立て上げている。鍼の達人であるという設定もそれを狙っているのだろう(しかし秘孔を突かれた敵が目鼻口から血を流して死んでしまっては、まるで北斗の拳である。敵の格闘ボスが手足が長くて上体も大きいのに頭がリーリンチェイより小さいというのもケンシロウみたいだ。まあいいけど)。これはまずまず成功していて、これまでのリーリンチェイとは一味違うカッコよさである(ブリジットフォンダと絡むところは相変わらずの純情坊や演技だが)。
しかし、パリはきれいな街だなあ。
御裁断は(最高☆5つ)
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