ピッチブラック
この手の良質なB級映画にふっと出くわせることが映画館通いの醍醐味です。太ったトラボルタのような顔をした凶悪犯を護送中の旅客宇宙船が、事故のためにある惑星に不時着し、犯人は逃亡。生き残った乗客は犯人の影におびえるも、実はその惑星には恐るべき生物が生息しており、云々かんぬん。さあ乗客達は生き残れるのか?というコンエアーとエイリアンとエイリアン2をごちゃまぜにしたようなお話。いや、むしろ宇宙を舞台にした動物パニック映画に近いのかもしれない。人間は怪物に対してほとんど無力で、エイリアンシリーズのように戦いを挑むわけではないですから。観客はほとんどの時間を宇宙船のパイロットのネエチャンの立場に同化して過ごすわけですが、実は本当の主人公は凶悪犯であるという一ひねりが、よくできた娯楽作にスパイスを添える。
設定が上手です。舞台となる惑星は3つの太陽に照らされていて、22年に一度だけ日食のために闇に包まれる。で、そのときに立体シュモクバエみたいな翼竜みたいなものが飛び回るわけですが、ということは怪物は暗い所にしか現れない(ついでに光を浴びると焼け死んじゃうという吸血鬼の設定もある。エコーロケーションを行うのだからコウモリでもあるし)のです。で、見えないほど怖いものはないわけで、SF的設定が映画としての効果を上手に作り出しているわけです。これは、低予算故の工夫なのでしょうが、ならば低予算をこそたたえましょう。大金を使っておどろおどろしい怪物をお見せするのが能ではありますまい。低予算とは言え、決して手を抜いているわけではなく、未知の惑星の世界構築は緻密に行われているので、安心してみていられます。なので、観客を怖がらせる方法がショック演出しかないという問題点には目をつぶりましょう。
キャラクター造形も一通りあり人物配置も工夫してあります。この手の映画では、誰をどのタイミングで舞台から消すかが腕の見せ所になりますが、適度の緊張感を保つような人物配置を最後まで維持し、観客が心寒くなるような人物の消し方もせず、なおかつ少々の驚きも加えてあります。やっぱり、これも安心してみていられるわけです。
最後に、生物屋として見ていると、面白いところがいっぱいありました。具体的に書くとネタバレになりそうなのだからやめますが、このへんも世界構築がしっかりしているなと感じられる点でありました。と、べた褒めに近いことを書き連ねてきましたが、星は最高点というわけではなく、
御裁断は(最高☆5つ)
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