クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲
いろんな映画評のページであまりに評判がいいもんだから、見に行ってみました。もし評判通りならば自分の映画通度合をひけらかすことができる格好の材料になるという色気もあって。「いや、あんた、クレヨンしんちゃんをバカにしちゃいかんよ。いっぺん見てみ、むっちゃ面白いで」なんて言いながら、「どうだい。あっしはどんな映画でも偏見なしに評価できるんだぜ」なんてことを暗にほのめかすわけですな。
いくらそういう色気があっても、この作品を天下のGWまっただ中に見に行くのは非常に勇気がいりました。正直、映画館の出入りには人目を気にしてしまって。そうです。わたしは極めて偏見の虜です。「クレヨンしんちゃんなんて、いいオトナの見るもんじゃないやい」って頑なに見るのを拒むクチなんです。
幸いなことに、この作品はあっしの偏見フィルターをすり抜けてくれまして、ありがたいありがたい。この作品は、実は「いいオトナに見せる映画」なんですね。キーワードは、希望、未来、郷愁、家族。これって子供には難しすぎる(オトナにだって結構難しい)か、そもそも子供には縁のないこと。とはいえ、子供が全く楽しめないわけではなく、しんちゃんのギャグや見せ場などサービスシーンはたくさんあります。つまり本作は、昔のウルトラマンシリーズのように、子供向けのフォーマットを利用して普遍的なテーマを語っているのです。この手法って、「どうせ子供向けだから」って油断しているスレた観客には奇襲効果があります。すっかりやられました。ウルトラ繋がりでの連想ですが(父ちゃんがウルトラマンになってゴモラもどきを退治するっていうのもある)、この映画は20世紀の匂いに大人たちがとらわれてしまい町には子供たちだけが残される、という日常生活から始まる異世界話なわけで、昔のウルトラQでよくあったような話でもあるんですね。60年代のウルトラ世界。ああ、懐かしい。
それにしても、懐古趣味というのは非常に強力なもので、そりゃあ、あっしだってこの映画のように20世紀博で昔の生活を再体験できるんなら、通ってしまう方だと思います(最近スカパーを見るようになったのですが、スカパーを支えている層の中にはそんな気持ちがあるんだと前から思ってます。スカパーを見ている人にこの映画はうってつけですぞ)。あっしなら、実写版忍者ハットリ君(白黒の)をもう一度見てみたいなあ。あと、ファンタゴールデングレープも飲みたいし。それから家のまわりに田んぼや舗装してない道がたくさん残っている町にもう一度住んでみたいよう。。。いや、そういう気持ちに単純に浸るんじゃないのがこの作品のいいところ。宮崎駿の作品みたいなアクションシーンはあってもジブリにあるような精神の退行性はここにはありません。生きる混沌たるしんちゃんはそんな甘えた部分をほっといてくれるキャラクターじゃありませんね。
クレヨンしんちゃんをちゃんと見たのは、実ははじめてなんですが(だって、あたしは偏見の塊)、こりゃあ流行るはずだし、PTAに睨まれるはずです(いい意味で言っていますよ)。大人というか権威というかを全く意に介しないしんちゃん。これが流行っているということは、今の子供も昔と変わらないわけだ。子供は今も元気なんだと安心していいんだか、子供は大人の不条理な権威に不承不承従っているんだとかわいそうに思うべきなんだか。
音作りをもっと丁寧にする余地はあるものの、クライマックスでしんちゃんが階段を駆け登るシーンではだだ泣きしてしまったし、デパートの中に隠れているシーンのサスペンスとユーモアの混ざり具合は秀逸だし、しんちゃんのお尻には単純に笑ったし、娯楽作品としての満足度は高いです。
この映画はちゃんと評価されるべきだから、みんな見るべし。このセリフは、決してあっしの歪んだプライドが言わせているのではないですぞ。だって、こんなことを言わなくったって、映画代のもとは十分に取れているもの。
御裁断は(最高☆5つ)
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