アンブレイカブル
私たちは情報が普遍的に行き渡る時代に生きていて、ともすれば「この世にもう何も新しいものはない」とうそぶきがちです。このことはある意味真実ですが、そうでないこともある。そういう時代であるからこそ新しいスタンダードが生じやすく、それゆえに新しい物を産みだす土台が生じてもいる。ゴジラ映画に対して平成ガメラが行ったのはそういうこと、つまりスタンダードの現代的再解釈だったと思うのです。
まあ、それはともかく、アンブレイカブルは観客を選ぶ映画だと思います。年に数本しか映画を見ない人なら、派手なところのない、非常に微妙な表現の上に成立しているこの映画を退屈だと感じる可能性は高い。また、シックスセンスの監督が同じ俳優を使って作った映画だということに過剰にこだわる観客なら、巧妙に張り巡らされた伏線と想像もつかないどんでん返しに対する期待が裏切られたことに対する怒りで真実を見逃してしまうでしょう。実際、この映画のストーリーテリングは非常にストレートです。カーブを待っていたのに、速球を投げられると、ど真ん中でも見逃してしまいがちなものです。しかし、映画に対する先入観が裏切られたときに迅速に反応できる柔軟な感性を持っている人なら、この映画がいかにオリジナルな部分を持っているかが理解できると思います。
正直言って、僕自身も最初は戸惑いました(配給会社もこういう宣伝をしたらいけないと思うなあ。これは傑作に対する侵害ですぞ)。しかし、見ている途中から、これはとんでもない映画であることに気がついて、そう思ってみたらレインコートのブルースウィリスの、なにをするでもないただ立っているシーンが非常にかっこよく思えてくるから便利なもんです。
この映画の良い点は、オリジナルであることと同時に、普遍的なテーマを持ってもいることです。それは「自分を発見すること」や「自分のできることをすること」に対する肯定です。まあ、非常にアメリカ的であると言えるのですが(よく考えたらこの映画はそうでなければならないのですが)、ここはレインコートを着ていることのオリジナリティーのために素直に評価させられてしまいます。いや、しかし、考えれば考えるほど長所が出てきます。すごいです。おそらく、この映画があまり一般受けしないだろうことは、残念です。
ただし、僕にはラストは不満です。あそこは、もっとさらりと描くべきだったと思います。観客の1/4くらいしか理解できないような表現で構わなかったでしょう。ひねくれて解釈すると、監督自身がシックスセンスの成功に足をすくわれたのかもしれません(このために星半個減点です)。まあ、そう思えば観客が誤解するのも致し方ないのかもしれません。それから、サミュエル・L・ジャクソンは大根ではないか、との疑いを今回も抱きました。
しかし、ネタバレしないように書くのも大変だわ。
御裁断は(最高☆5つ)
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