ラスト・キャッスル
一般に、人は高い地位につけばつくほど、質の高い仕事を遂行することを要求される。こんなとき人は、果たして自分にそんな事ができるのだろうかという不安にかられるものだ。普通その不安は仕事をうまくこなしていく中で解消されていくものだが、時に人は自分の能力を越えた地位に就いてしまうことがある。そうすると、当然仕事ははかどらなくなり、不安はなくなるどころか逆に強まりつづける。そうなれば、その人に残された道は、その地位に伴う権威を利用して他人に服従を要求することで、現実から目を背け不安を紛らわせること以外になくなってしまう。こうして、これまで温厚一筋だった人が突然権威主義の塊に豹変するのである。
この映画は、そんな無能な管理者(あからさまにサリエリであると表現されている)の下に将たる器の人物が置かれれば何が起こるのかを描いている。ロバート・レッドフォード扮する将軍は、必然的に戦いを主導していくことになるのである。これを無駄な戦いだとか、もっと穏やかな解決方法があるはずだ、と言う人がいるなら、その人は人間性に関して勉強不足である。利害の対立から発生する問題ならば交渉によって解決する事も可能だろうが、無能な管理者の心の中に存在するこの問題に対しては、巻き込まれた不幸を呪いつつ、自分の心の健康を守るために何の得にもならない戦いを仕掛けなければならなくなる。ある意味守るために攻撃せざるを得なくなるのだ。
この映画を見ていると、ロバート・レッドフォードが理想主義者であることがよくわかる。昨今全く流行らなくなった「あるべき姿」が、この映画の中で衒いもなく語られるのだ。20−30年前にはこういう映画が良く作られていたような気がする。善と悪の描き方もなんだか古くさい。まあ、しかし、たまにはこんな映画が公開されるのも良いのではなかろうか。「あるべき姿」を見失って、自分の損得勘定だけで生きていくのもつまらないものだ。そうではないですか?
御裁断は(最高☆5つ)
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