バニラ・スカイ
例によって、あまりストーリーを語ることはできないのだけれど。
この映画は決してトム・クルーズ、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアスの三角関係を描いたラブストーリーではない。これは、最後まで本当にはそうと知ることのできない現実を、にもかかわらず選び取るお話である。また、これは人と同じ地平で苦しむ神が、それでも人を選び取る話でもある。人生は何と困難で、価値あるものだろうことか。
通常、私はこの手の引っかけ宣伝には批判的である。作品の本質を隠ぺいすることは観客を愚ろうすることだと思っている。しかし、今回に関してはそれもいいかもしれないと思う。世間に一片の疑いも持たずに生きてきた人たちが、トム・クルーズを接点にして世界と常識の無根拠性に触れて慄然し、それでも明日を過ごすためには何が必要かについてほんの少しでも考えてくれるようになれば、世界はもう少し過ごしやすいものになるだろう。多分、この映画を正面切って宣伝しても、本当に必要な人には届かない様な気がする。
ペネロペ・クルスは素晴らしい。キャメロン・ディアスは本当に怖くなってきた。カート・ラッセルがこんな役をやっているのを見るのは、ファン冥利に尽きる。トム・クルーズのナル指向は今回は問わない。
星4.5をつけるが、私はオリジナルの「オープン・ユア・アイズ」を未見なので、この評価が、ただオリジナルを間接的に評価しているだけなのか、それともトム・クルーズとキャメロン・クロウがオリジナルの価値をより高める作業を行ったためなのかはわからない(なので、今は早急にオリジナルを見たいという気持ちに駆られている)。とはいえ、トム・クルーズは少なくともこの作品を自分たちの手で作りたいと望んだのだ。それは、彼が映画というものに真摯に取り組んでいる証に思える。私は「タップス」以来、ずっとトム・クルーズを見てきたが、はじめて彼の真面目さを理解することができ、好感を持つことができた。これは大きな収穫だ。
御裁断は(最高☆5つ)
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