ボーン・アイデンティティ
あっしは一週間前に同じマンションの一階から三階に引越しをしたのです。間取りはほとんど同じ新居なんだが、いくつか微妙に異なるところがあって、玄関のドアノブが左右逆についていたりする。で、体に染みついた記憶というのは厄介で、いまだに朝慌てて家を出ようとすると、手を伸ばした先にドアノブが無くって戸惑ってしまうのですな。
この映画はそういう話で(大分とスケールが違うが)記憶をなくしたCIAエージェントのジェイソン・ボーンが、体に染みついたスパイ技術を駆使して、失われたアイデンティティーを探し求めるという。スパイの本場ヨーロッパでの全編ロケとシャッキリした演出、決して美人とは言えないフランカ・ポテンテが醸し出すリアリズムがあいまってアクションサスペンスとしては一級の仕上がりになっている。面白いよ、この映画。
原作は、ロバート・ラドラムの「暗殺者」。こう見えてもわたくし国際謀略小説に一時期はまっていまして、フォーサイスやら何やら読みふけっていました。で、ラドラムも当然ながらいろいろ読んでたのですが、その最高傑作と誉れの高い「暗殺者」は何故か持っているのに読んでいない。今から本棚の文庫の山から探しだして読もうかしら。
ラドラムの小説は、リアリズム重視の国際謀略小説群の中ではケレン味たっぷりのほうで、一つ間違えば荒唐無稽に落ちてしまいそうな骨格のストーリーの一方、全編を貫くトーンや結末は苦く暗いという奇妙なバランスが独特の味わい。映画の方はどうかというと、ケレン味の方はビジュアルにするのが難しく、落ちの方はハリウッド映画だし。知らずに観てこれがラドラム原作の映画化だと見分けるのは難しいだろうなあ
御裁断は(最高☆5つ)
2003年に見た映画へ
一覧へ