バットマン ビギンズ
ヒット作の続編の持つ構造的な弱点と言うのは、観客の多くがその作品世界について既に豊富な知識を持っていることである。だから、多くの場合続編物では、背景の描写ははしょって、最初から見せ場をどんどん投入する。しかし、これは結果的に全体のバランスを崩すことになる。何事もタメがあってこその盛り上がりであるが、続編物ではタメが許されにくいのだ。
ところが、この作品では、誰もが知っているバットマンのでき方を描くことにより、この弱点を回避している。誰もが知っているバットスーツも、ブルース・ウェインがそれを初めて装着するというシチュエーションであれば、丁寧に描写してもお客は文句を言わない。これでタメができて、やっとバットマンが登場したときには、見ているこちらは「待ってました」という気分になる。クリストファー・ノーランが偉いのか、デビッド・S・ゴイヤーが偉いのか知らないが、とにかく良くできた仕掛けだ。
どうでもいいが(ホントは良くないが)、ゴッサムシティ存亡を賭けた戦いに際して、ブルース・ウェインはいくつかのダメージをくらう。まずウェイン家の名声が地に墮ち、そして何代にもわたって住んできた豪邸が焼かれ、最後に良き父の象徴であるモノレールが破壊されるのである。そしてバットマンが誕生する。つまりこの作品は、典型的な父親からの脱却による自立、もしくは死と再生による自立の話になっている。しかし、その重要なキャラクターである父親であるが、私の目にはどうにも乗り越えるべき巨人のように見えなかったのが残念。でも、なんか見覚えがあったので、劇場から帰ってきて調べてみたら「フォーガットン」の彼じゃないか。そりゃあ人間らしい温かみを感じられんわな。「フォーガットン」を先に見ていたのは不幸な巡り合わせだ。
キャスティング、ぱっと見は豪華だけど、モーガン・フリーマンの役どころなんてバランスを欠いて豪華な気がするし、マイケル・ケインが執事ってのも何だかちょっと座りが悪い(案の定、ネクタイ緩めてるシーンがいくつもあってお行儀悪い)。ケイティ・ホームズは娘さんの時期を過ぎて少し苦しいし、謙さん使い捨て。それにしても、エンドタイトルになるまで、あれがルトガー・ハウアーだって気がつかなかったよ!
御裁断は(最高☆5つ)
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