レミーのおいしいレストラン
料理の難しさと言うのは、素材の質が日々刻々変わる事だと思う。見た目同じ素材でも、味が毎回違うから、その度ごとに状況に応じた味付けのやり方や、場合によっては素材の組み合わせを即興で変える事が求められる。こういうところが料理の創造性であって、才能の無い人にはなかなか難しい。だから、この映画でレミーを導くグストーがいう「誰でもシェフになれる」というのは、ちょっとウソっぽいなあと思っていたわけだ。で、この映画が優れているのは、そういう「?」と思うところを、最後にキチンと解消してくれるところである。他にもそういうところはあって、レミーとリングイニはまわりを騙しながら成功していくわけだけれども、やはりこれは見ていてどこか釈然としない。で、「このウソはさすがに告白するとハチャハチゃになりそうだから、このままモラル的に傷のある主人公のまま行くのだろうか?」と思っていたら、ちゃんとクライマックスで告白させて、しかもハチャハチゃにならずに次の展開に着地させるという。話の設定にわざとねじれを作っておいて、そのねじれが元に戻ろうとする力をバネにして話を転がしていく。これは、かなり頭の良い物語である。
で、このやり方は実は昔ながらのやり方でもある。まだ特撮やCGが発達していなかった頃の昔。ということで、この作品の印象は、どこか古き良き時代の映画というもの。CGアニメを誉める時には、アニメと感じさせない、という表現がされる事がしばしばあるが、その多くが技術の進歩によってCGのクオリティーが上がった事を指すのに対して、今作の場合はもっと本質的な部分でアニメを感じさせないのである。
ただ、問題もいくつかあって、なぜ決めの料理がラタトゥーユなのかについての伏線はもっと張っておくべきだし、料理評論家のキャラクターについての描写が少ないから、悪魔のような前半と、クライマックス以後との態度の違いのギャップに違和感を覚えたということもあった。それがちょっと残念。味覚に関する頭の中身の表現はちょっと気に入った。
ピクサー映画おなじみの前座の短編、今回は「Lifted」。いつも短編はCG技術の実験作でお話は二の次的なところがあったけれども、今回はお話がちゃんとしていて、腹抱えて笑う事ができた。しかし、ということはもう実験しなくて良いと言う事、つまりCGアニメは技術的な飽和期に入ったって事なのかもしれない。
御裁断は(最高☆5つ)
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