ボーン・アルティメイタム
「キングダム」の感想を書いた時に、セミドキュメンタリー風手持ちブレブレカメラワークの事に文句をつけたものだが、その手法のご本尊たるポール・グリーングラスによるボーン三部作の最終編である。
彼の作品だと「ユナイテッド93」なんか、あまりの画面揺れのひどさにスクリーンを観ていられなくなったものだが、今作は違う。同じように手持ち風カメラなのであるが、ほとんど画面酔いしない。この手法もキッチリと計算してやれば良いのである。すなわち、手法に本質的な問題があるのではなく、画面酔いする事になるのは単に作り手が下手なせいなのだという。だとしたらグリーングラスの作品の中で「ユナイテッド93」のみがダメなのはなぜか?と言う事になるのだけど、それはその素材ゆえに上手に撮るのが憚られたからではないかと邪推してみる。
それはともかく、今作も素晴らしい。21世紀のアクション映画の金字塔を打ち立てたと言っても過言ではない。特に素晴らしい点は四つ。一つ目は二時間弱の上映時間中一時たりと緊張が途切れない事。これはアクションシーンだけでなくて俳優陣の頑張りによるところも大きいだろう。二つ目はそのアクションシーン。前作をも超える細かいカットの連続にも関わらず何が起っているかが観ていてはっきり理解できる。この作品における各カットの計算性の高さと編集の精緻さは、アクション映画のみならず映画一般の水準を一段高いところに押し上げる物だと思う。3点目は、2作目との繋がりの処理がとてもユニークである事。まさかスプレマシーのあのシーンが今作であそこに接続するとは(でもスプレマシーでは心が通じ合ったように見えたジョーンアレンとまた対立する事になるのは不思議だな?とかなぜアルティメイタムはロシアのシーンから始まるのか?とか思ったけど)。四点目はさりげなく一作目を想起させるシーン(ジュリアスタイルズが髪を染めるシーンと、ラストシーン。あのラストシーンは否応なしに一作目のオープニングを思い出させる)がちりばめてある事で、おそらく元々は三部作ではなかったこのシリーズの統一感がこれによってぐっと高められている事(原作では三部作だけれど、映画が原作に添っているのはアイデンティティーだけで、その後2作のストーリーはオリジナル)。
一方で、不満が無い事も無い。一つ目は、これまでに比してボーンの感情的側面があまり強く打ち出されていない事。二つ目は、ストーリーが比較的単調で、複数のプレイヤーの相互作用から生まれるダイナミズムが感じられない事。3点目はラストの音楽。折角一・二作で全く同じ曲を使ったのに(しかもそれが痺れるくらいカッコいい)、今作では曲こそ同じものだけれどもアレンジがガラッと変わってしまって、映画の雰囲気と合わなくなってしまった事。返す返すもこの点は残念だ。
とはいえ、総体で見れば、長所の方が短所を遥かに上回っている。三部作でこれほどの水準を保ち続けたシリーズが他にあるだろうか。というわけで、21世紀に生きる映画ファンならこのシリーズを見逃してはいけないと思う。
御裁断は(最高☆5つ)
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