インベージョン
「盗まれた街」の何度目かの映画化である。この原作は、これまでボディ・スナッチャーになってきたのであって、すなわちB級SF映画の定番とでもいうべき。それが今回ニコール・キッドマン主演だという。またこんな大物スターがどうしてこの作品に?と観てみたわけだ。で、私の邪推ムンムンの結論としては、キッドマンはトムちん恐怖体験を表現する誘惑に抗しきれなかったのに違いない、という。無表情なジェレミー・ノーサムってトムちんの面影があると思いませんか?
それはともかく、世間での不評度合いとは違って、私はこの作品には高い評価を与えたい。そのポイントは、この宇宙生物の人体への「侵略」は、人を殺してしまうような不可逆なものではなく、体内から駆除さえすれば以前の状態に戻れる、という設定にある。つまり、この映画で描かれているのは病気で人格が変わってしまう事に他ならない。で、病気によって引き出される人格は、周囲からすれば別人のものに見えるのかもしれないが、やはりそれは立派にその人のものなのである。ラストシーンで、キッドマンは非常に複雑な思いのこもった目でダニエル・クレイグを見るが、それはつまり「今は表に出てはいないが一体何を思っているのか本当にはわからないわ」という意味なのだと思う。そう思いながらもキッドマンはその状況をポジティブに受け入れているのであって、これは「他人の理解なんてしょせんそんなもの」という諦念と共に、「人間とは同化を迫りたがる部分が本質的にあって、そんな非人間的な部分が人間性の一部なのだ」という見方を提示しているのではなかろうか。中盤でロシアの大使が中盤であからさまに言う「戦争や諍い事が人間性の本質である」というのは擬装なのだと主張したい。
ところで、私のヨメサンはときどき理由もなく大変不機嫌になる事があって、そういう時は「寝ている間に別人にすり替わったんじゃないか?」とよく思うわけだが(よく寝るし)、数日するとまた元に戻るので、宇宙生物侵略の先兵というわけでもないらしい。で、私の興味的には、その機嫌が悪い時のヨメサンの主観的な自己認知はどんなものなのか?と言う事が気になるのだが、まあきっと人格が変わったなんて自覚は無いに違いない。ということは、この映画で感染した人達が語る「別に何も変わらない」というのは案外真実をついているのであろう。
作品の出来としては、全体のテンポも良いし、無表情な人ごみの中、微妙に顔を崩しつつ逃げ回るキッドマンのサスペンスは一見の価値があると思う。もうちょっと誉められても良いんじゃなかろうか。ということで、星半個おまけする。
御裁断は(最高☆5つ)
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