ゾディアック
知りたいと言う気持ちは人の持つ最も基本的な欲求の一つだろうと思う。しかも、一度それにとらわれると、人はしばしば身を滅ぼしてでも答えを求めようとする危険な欲求でもある。Curiosity killed the catということわざもある。で、研究者になろうと言うメンタリティーを持つ人は、根底の部分で今作の登場人物たちと通ずるところがあるわけで、つまり私なんかはジェイク・ギレンホールの行動を決して平静では見られなかったと言う。
「なぜそこまで知りたいのか?」と問われれば、おそらく登場人物たちも確たる答えを返せないだろう。それはつまり、とらわれたとしか言いようがない落とし穴。たぶんジェイク・ギレンホールの場合は、あの暗号で、それ自体は危険でも何でもないただの頭の体操のようなものであるが、しかしそれをきっかけとして起こった「知りたい」という気持ちが彼を危険にするのである、とそういう話。
ドラマとしては大きな盛り上がりがあるわけではなく、淡々と、かつじわりじわりと締め上げてくるような息苦しさに支配される二時間半である。フィンチャーは、今作ではその才気をひけらかす事はせず、風格をも感じさせる演出。あと70年台から90年初めにかけての社会の雰囲気の変化を上手く表現しているところに感心した。
もともと未解決の事件の映画化であるから、ハリウッド風のカタルシスとは無縁の作品である。そういうものだと十分意識した上で見るのが良いだろう。私はもう少しサスペンス性の強いものを期待していたので、少し肩透かしをくらった感じを受けた。
御裁断は(最高☆5つ)
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