ダークナイト
まあ、テーマはどうでもよい。純粋な悪にどう相対するか?とか、殺さなければ殺されるシチュエーションでどうするか?とか、悪を滅ぼすために悪を使う事の是非とか、正義の存在が悪を生み出すとか、アメリカの人に衝撃を与えたと言うこのテーマの数々自体は、別に新しいものではない(というか、この話は基本的に天使(というか神の側のもの)と悪魔と人間の話であって、キリスト教文化の人にはとってもなじみ深い物語なのじゃないのかしら?だって、悪魔はもともと天使であり両者は裏表の存在なわけで、かつ悪魔は人間を誘惑して、神の側には人間の罪をかぶる者がいるでしょ)。それに、なんでもかんでもポスト911と絡まっているわけでもないだろう。なので、私には巷で絶賛されているほどには今作が傑作だとは思わなかった。
まあそれでもジョーカーの造形はすごかった。特に看護婦姿のところが。身も心もボロボロにされたハービー・デントを病院に訪ねてきて、悪に誘惑するところ。あのメイクでピンクのナース姿をした男と向かい合うと言うシュールな場面では、確かに正気を維持するのが難しそうだ。そこまで考えてのコスプレなのか?>ジョーカー。その後、その姿のままで明るい日差しの中に出てきて、なにげなく建物を爆破する時のしぐさ。衝撃的。
ところで、ジョーカーの悪の誘惑術の本質は、相手に選ばせる事にあるように思う。どうしようもない状況に誰かが追い込まれ被害を被ったとしても、それがどこからか降りかかってきたものであれば、人はなんとか対処する事ができる。しかし、ジョーカーは必ずそこに選択肢を残しておく。ここで選んでしまうと、その人はどんなにいやいやであったとしても、その結果にある種の責任を感じる事になるわけだ。そうして悪に引きずり込まれる、という。つまり何が言いたいかというと、フェリーのシーンで囚人のボスがとった行動は全く正しいということだ。
そう考えると、なぜ私たちが悪と縁を切れないかということも理解できる。一つも選択せずに生きていく事なんてできないんだからね。
御裁断は(最高☆5つ)
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