陰謀のセオリー
リチャードドナーはハリウッドのとても上手な職業監督だとずっと思っていましたが、実は作家性を強く持っている人なのではないでしょうか。僕は彼の作品なら、見ればそうと当てることができるような気がなんとなくしています。
陰謀史観というのがあって、すべての歴史は一部のものの陰謀によって動いてきているのだという考え方なのですが、本作の主人公は一見それ風のタクシーの運ちゃんで、のべつ幕無しに自分の考えた陰謀のセオリーを喋りまくっています。これがメルギブソンです。そう聞くと映画をちょっとかじっている人なら、リーサルウェポンのリッグス刑事とオーバーラップするでしょう。喋りまくらせれば、そこらのスタンダップコメディアンよりずっと上手いメルギブソンです。さて、リッグス刑事は作を重ねるごとに本当に漫才師みたいになってきていましたが、今回はしゃべくりまくりながら、狂気の色を示し続けます。これまででも、メルギブソンの演じた役はどこか切れたところのある役ばかりでしたが、今回の狂気は正真正銘です。見事な演技でした。タイミングがよければアカデミー賞もあるかもと思わせます。
で、ジュリアロバーツがヒロインです。彼女とメルギブソンの関係は「ボディガード」と「ペリカン文書」(でも、男女の役割が逆転)を混ぜ合わせたようなものです。メルギブソンは彼女を守ろうとするのですが、一方で彼女を頼りにもしています(つまりジュリアロバーツがペリカン文書のデンゼルワシントンみたいな役回りです。ああややこしい)。このへんの危なっかしさが、メルギブソンのいかれた演技(本当にこいつ大丈夫かなと観客に思わせる説得力!)と相まって、見ているほうは否が応でも緊張していきます。今思い返してみても、それほど派手なアクションシーンがあったわけでもないのに緊迫感は物すごいものでした。緊張感の作り方が上手いので、プロットの御都合主義なんて、どうでもいいことになりますね。見た後に僕が感じたエモーションは「リーサルウェポン」の第一作によく似ていました。素敵なことです。
ところで、前半の拷問シーン、あれは、怖かったぞー。あれで、一気に盛り上がったよなあ。思いだしちゃいました、「マラソンマン」。Is it safe ?
御裁断は(最高☆5つ)
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