エビータ
えー、お恥ずかしながら不肖中田このところ不勉強でありまして、本作がアンドリューロイドウェーバーのミュージカルだということをついぞ知らずに劇場に足を運んでしまいました。で、いきなりバンデラス君口パクで歌いだしたからびっくりしちゃった。でもね、今作は映画のカタルシスを存分に味わうことのできる素晴らしい作品でした。普通舞台の映画化といえば、映画人のエゴやプライド(「舞台がなんじゃい、映画の作法で料理してやるわい」)が入ってきて折角舞台用に純化したお話しが散漫なものになりがちですが、さすがはアランパーカー&オリバーストーンは手練れの者共、見事に台詞を切り落として歌だけでストーリーを展開していきます。しかし、もちろん映画にはライブの迫力はないので、それだけでは舞台を上回る作品はできようはずもありません。悪くすると歌の途中でお客さんはダレ始める可能性さえあります。しかし、ここでも連中は手練れです。登場人物の表情や、シチュエーションを表わすショットを見事にカッティングしてき、また一枚一枚のショットのクオリティーの高さが僕たちを飽きさせません。ここで、この作品は台詞に頼らずしてストーリーを語るという映画として最も純粋な理想の形をミュージカルの映画化を逆手にとって成功させたのでした。これこそが映画のカタルシスなのです。
ところで、あたしゃ不勉強なのですがバンデラス君の役柄は舞台から存在していたのでしょうか。あの、バンデラス君の熱や視点はオリバーストーンの持つ資質のように思え、ひょっとしてこのキャラクターはストーンの創作かとも思ったのですが、あまりにも歌いすぎなので、この役なしに芝居が成り立つようにも思えないし。。本当のところどうなんでしょ。舞台が見てみたくなったのははじめての経験です。
それにしても、このバンデラス君の視点がこの映画に大きな深みを与えています。結局、人や世の中は複雑です。複雑なものをきちんと捕えるためには常に二つの両極が必要で、二つをバランスすることでしか実現できないんです。そういう意味でエバペロンが死の床でバンデラス君と様々な舞台で踊るシーンがこの映画のクライマックスであることは言うまでもないでしょう。両極はここではじめて手を取りあい、踊り続けます。そうして、バンデラス君は影に退いていき、エバペロンは世界から退場していったのです。この構造に僕は深く感動しました。
さて、最後になりますがエバペロンの最初の男になったタンゴ歌手。おいら、君に同情するよ。
御裁断は(最高☆5つ)
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