リング
原作は「リング」の方が面白く、「らせん」はイマイチという気がしました。映画は逆の印象でした。なぜでしょう?
思うに、原作の映画化はいかにオリジナリティーを加えるかが勝負です。で、「リング」の最大のオリジナリティーは主役を女性にして、そして主役を助ける男、高山竜二を主役の別れた旦那に設定することで、死のビデオを見た彼らの息子を救うということを主軸にしたことでしょう。しかし、これは原作のもつテーマを完全にないがしろにしてしまいました。ですので、原作を好きな僕のような人にはとても不満の残るものなのです。親と子の愛情と言うテーマや、松嶋菜々子の持つ甘さのせいで、非常に硬質な原作のよさが失われています。何がもったいないかといって、高山竜二のあのキャラクター設定が全然説明されていないので、特に「らせん」での彼の行動に説得力がなかったことです。僕は原作を読んでいたので、理解できましたが、まったくはじめて見た人はどうだったのでしょう?彼に共感できましたか?
同じようなことは山村貞子にも言えます。あの淡泊な表現では、彼女の深い恨みがちっともわからない。あんなことのために人間が滅ぶのだとしたらやりきれませんね。
原作は「リング」の方が「らせん」よりもより論理がしっかりしていたように僕には思えます。そもそも文章とは映像に比べて格段に論理性が高く、そのため「リング」のほうが「らせん」よりもずっと映像化が難しかったのではないでしょうか。ずいぶんとプロットをはしょっています。まあ、それは仕方がないのですが、「らせん」はそのはしょりのせいで破綻しかける物語を、原作のテイストを保ちながらうまくまとめています。むしろ、無理の多かった原作よりもすっきりしたくらいです。ただ、個々のシーンの爆発力と言う点では「リング」に軍配が上がります。写真が歪むところ、山村貞子の動き、あー、思いだすだけで怖いよー。眠るときに思いだしてどきどきしてしまいました。
それにしても、映画では水が恐怖の象徴として使われることがしばしばあります。今作でも「リング」では明らかに海は恐怖の象徴で(これはある意味で母性の恐怖ともいいかえられるわけで、その意味で「リング」のテーマには混乱が見られるのですが)、しかも溺れることが原作段階で存在する「らせん」と違って、「リング」は映画のオリジナルとして水の恐怖を持ってきたように思います。なぜ、水は恐怖なのでしょう?やはり、これも女性恐怖の物語なのでしょうか?確かに、怖かった。
御裁断は(最高☆5つ)
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