秘密
僕はまだ独身で、夫婦というものが、どのようなものなのかよくわからないのです。ここ何年かは身近に夫婦者が増えてきたので、だいぶん理解が進んだような気がしますが、それまで僕のよく知っている夫婦というのは、自分の両親しかいなかったわけです。少なくとも僕の父は小林薫みたいじゃなかったし、母は広末と言うか、岸本加世子というかじゃなかったなあ。
長年連れ添った夫婦の愛情を描く一方で、この映画は疑似的な初恋を描く映画でもあるのです。恋と愛は似ているようで全然違うものだと思います。実際の生活で、この二つを両立させようと思えば、不倫しかないわけですが、そのときは文字通り倫理上の問題が生じるわけで、当人が100%幸せかというとそうでもない。しかし、この映画の小林薫は、二つを両立させ、しかも倫理的に純粋でいられるという。まあ、これにも問題がないかというとそうでもないのは映画に描かれている通りなんですけどね。
この二面性、小林薫のほれぼれする、そして広末の圧倒的な演技の技で現実になっています。映画の前半は小林薫の独壇場かなと思っていたのですが、途中娘の藻奈美の人格が再び表れるところあたりから、広末の存在感がお話を圧倒していきます。そして、その情感はラストに向けて。。。
正直言って、とんでもなかったです。泣かせ系の映画は、見ているこっちは最初ッから構えてしまっているので、泣けることなんてないんですが、この映画だけは参りました。アイドル出てるからー、なんてのも油断させられました。最初の5分くらい、黒部アルペンルートを通ってスキーにはいけないよーとか、あんなとこから落ちたら誰も助からんよーとか、病院で死にかけてる患者のベッドを看護婦が手伝って動かすなよーとか、「おいおいそんな非現実的なことするなよ」と思っていましたが(実際、この監督はファンタジーの演出が下手なんでしょうね)、その後、二人が家に戻ってきて、生活をはじめ出すと、細かなところまで、こちらの共感回路をグイグイ揺さぶってくる(やっぱ、一番わかるわかると思ったのは盗聴器だな)。そのうち、見ているこちらは共感回路の動作の激しさに、批判的理性を失ってしまい、後はキャラクターの感情の揺れとおんなじように感情を揺さぶられてしまうのです。映画というメディアの持つ潜在的力を100%出しきった映画でした。
話は変わりますが、食べるシーンがやけに強調されている映画でした。辛子明太子、ソフトクリーム、お蕎麦、ラーメンなどなど。どういう意図だったのでしょうね。下手すると絵空事としか捉えられないストーリーを現実の地平に少しでも近づけようということだったのかな?
それから、誤解のないようにいっておきますけど、こんなにべた褒めしているのは、決して僕が広末ファンだからじゃ、ありませんからね。これまで、僕は30過ぎたいい男が「広末はいいよお」なんて語ることをちょっと恥ずかしいかなと思ってましたけど、この映画を見た後は確信をもって言えます。「広末は天才的だ!日本の宝だ!!何をやっても許す!!!」。僕など30過ぎても夫婦ってのがわからないのに、まだ10代の彼女がどうしてこんなにリアルな夫婦を演じれるのだろう?これは、カンがいいというしかないのだろうか?
僕なら、この映画に主演したっていうだけで、単位出しますよ。少なくとも人間というものの理解について、凡百の人ではかなわないでしょう。大学もいいけど、お仕事もがんばってね。
ああ、こんな時期にこの映画を見れたってのは、幸せなことだなあ。人生に影響を与える一本に出会える機会って、そう滅多にないものですよ。って、これは個人的なことでした
御裁断は(最高☆5つ)
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