マトリックス
すごい。これほどオリジナルな映画には何年かに一度しか出会えないでしょう。いろんな意味で衝撃的でした。思えば、ターミネーターやブレードランナー、マッドマックス2などを見たときも、そこに構築された独創的な未来の世界に、まだ多感な十代だった僕は頭がくらくらしたものでした。そういう感覚を、齢30を越えてまた味わえるとは。
チャイニーズゴーストストーリーもかなり頭をぶちのめされたものでした。ワイヤーで飛びながらのチャンバラなんてえ、想像を絶したものでした。マトリックスは香港アクションの正統なハリウッドバージョンですから、ワイヤーワークはたくさんあって、面白かったです。香港映画と比べるとアクションシーンに至るまでが丁寧に描写されているので、否が応でも盛り上がる。まあ、とはいえ、ワイヤーワークは上手に丁寧に作ったということで、感心はするけれども、センスオブワンダーとまではいかないのです。しかし、スローモーションかつ高速に移動するカメラは視覚的驚き以外の何者でもない。これはジュラシックパークでリアルな恐竜がCGIで描かれたときの視覚的驚きとはまた違うのです。ジュラシックパークの場合は、これまでの技術の延長線上にあったわけで、想像することが可能だったわけですが、マトリックスのあのシーン(バレットタイムというらしい)は、実際に目にするまでまったく想像も出来ない映像でした。いやはや、驚きました。マトリックスは今後十年間のハリウッド映画に影響を与え続けるでしょうことよ。
どんなにいやなものでも、まずい飯しか食えなくても真実は真実。そこから目を背けて安隠たる夢をむさぼろうとも、それは死んでいるのと同じこと。このテーマに賛同できる人間は、ほんとうのところどれほどいるのでしょう。僕は自分のまわりを見渡してみて、それほど楽観的にはなれません。端から見ればいかにグロテスクであろうとも、培養液の中で夢を見ていれば、そのことにも気づきはしない。それに、もし無理やりにでも目覚めさせたとしても、それさえも拒絶してゆりかごの中に戻ろうとする人が現実の世の中になんて多いことでしょう。ネオは本当に救世主になれるのでしょうか?
もちろん、ネオはキリストです。預言者がいて、ユダがいて、死と復活があって。でも、結局のところキリストも救世主にはなれなかったわけです。生誕後2000年も経って、まだキリスト再来を待望する映画が作られるのですから。マトリックスは続編も作られ三部作になるそうです。どのようなお話になるのか、とても楽しみです。
難を言えば、マトリックス世界があまりに複雑なもので、その説明にむちゃくちゃ時間をとられてしまうことでしょうか。マトリックス世界の真実を暴く前に、その見かけがいかに普通に見えるものかを、もっと描写しておいたほうが良かったのだと思います。そのほうが、現実の無根拠さにもっと震えられたでしょうに、そのための時間があまりなかったのでしょうね。それから、アクションシーンにもしわ寄せが来てたのかな。
しかし、こんなのは、たいした欠陥ではありません。すべての映画ファンはマトリックスを見て衝撃に打ち震えるべきです。生きててよかった。
御裁断は(最高☆5つ)
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