ベイブ 都会へ行く
本当の意味でのおとぎ話を見せられたような気がします。普遍的に人の心の中にある属性、特にevilな属性を純化して取りだし、カリカチュアされたキャラクターとして具象化し、そのキャラクターを使ってお話を紡ぐ。この映画は、ある種の神話を語ることを目指したものであるともいえるでしょう。僕は、特にベイブたちが動物駆除係に捕まるシーンでのスローモーション処理に、この映画の神話性を強く感じました。
この映画、人間が本質的に持っているevilnessを描くことだけが主眼だったんじゃないでしょうか。しかも、そのevilnessは悪として描かれるのはなく、ただそこに存在しているものとして描かれます。そもそも、この話の発端は英雄であるはずのベイブが引き起こしたものです。ベイブはevilnessを持っていないキャラクターのはずなのですが、なのに、その行いは結果としてevilな騒動を引き起こしていきます。もちろん、ベイブは悪くない。でも、災厄はそこに現れるのです。おそらく現実の世の中ってのは、そういうものなのでしょう。でも、映画館の中でそのことをずっと見せられ続けるのは、しかもかわいらしくいたいけな動物をキャラクターとして描かれると、その寓話性は強く引き立たされるので、僕はとても辛かった。見ている間、ずっと悲しくって泣きそうでした。
僕はベイブの第一作を見ていないので比較はできないのですが、今作ではベイブは主役というよりは、狂言回しです。僕が見るところ、本当の主役はオランウータンのセロニアスでしょう。あの瞳が訴える、生きるということへの諦観、そして最後の最後の瞬間にその諦観は少しだけ破られる。素晴らしい名演技でした。さすがは万物の霊長と言ったところでしょうか。
監督のジョージミラーは、昔「トワイライトゾーン」の第四話、グレムリンが出てくるエピソードでも、おんなじような調子でジョンリスゴウにふりかかるまったく理不尽な災厄を描いていました。おそらく、今作はあのテーマを膨らませて、描き直したのでしょう。よりによってベイブという一見正反対の世界を使って。底の深い監督です。
僕は、この映画を人に勧めようとは思いません。でも、見るべき価値のある映画です。それは断言できます。
御裁断は(最高☆5つ)
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